薬剤塗布バルーンで経皮的血管形成術後の再狭窄率が低下

   こんにちは。
   これは半年前の論文ではありますが、JACCのPodcastで大きく宣伝され続けている論文です。日本では2021年2月に保険適応され、3月に日本メドトロニック株式会社より販売され始めたばかり*ということで、透析業界ではホットな話題であると思います。

Drug-Coated Balloons for Dysfunctional Dialysis Arteriovenous Fistulas. Lookstein RA, et al. N Engl J Med
. 2020 Aug 20;383(8):733-742.

   血液透析というと、週3回、1回あたり4−5時間は拘束されるというネガティブな印象が強いと思いますが、腎臓は主要な臓器の中で唯一、完全に機能が失われても透析のおかげで長期生存が可能なのです。そのため、人工腎臓などとも呼ばれます。
血液透析には、橈骨動脈と橈側皮静脈を皮下で吻合し、動脈血を静脈に流すことで血流量を上げた内シャント(Arteriovenous Fistulas: AVF)を用います。しかし、この内シャントは日本では年間10%前後閉塞しています。(畠山卓弥 他 日血外会誌 17:557–564,2008)内シャントが閉塞してしまうと、透析を行えなくなるため、シャントを開くか、再度シャントを作る手術が必要で、通常カテーテル使って狭窄・閉塞したシャントを内側からバルーンで広げる血管内治療法がまずはとられます(経皮的血管形成術)。バルーンで開いても再狭窄が問題となっているため、細胞分裂を阻害するパクリタクセルを血管壁に届けるというバルーンが開発されました。この論文では、パクリタクセルが塗られたバルーン(薬剤塗布バルーン)と通常のバルーンで、経皮的血管形成術後の再狭窄率が調べられました。

   前向き単盲検多施設ランダム化比較試験です。330人の患者のうち、170人が薬剤塗布バルーン、160人が通常のバルーンで治療を受けました。術後6ヶ月間の開存率は、薬剤塗布バルーンが82.2%、通常バルーンが59.5%と有意に薬剤塗布バルーンのほうが高いという結果が得られました。30日以内の有害事象については薬剤塗布バルーン群が4.2%、通常のバルーン群が4.4%と、非劣勢が示されました。

  まだ短期の成績とは言え、かなり良い成績が出ています。冠動脈のステントがほぼ薬剤溶出性ステントに置き換わったように、今後経皮的血管形成術のバルーンも薬剤塗布のものに置き換わっていくかもしれません。

 

*日本メドトロニック 日本初の透析患者さん向け薬剤コーティングバルーンIN.PACT AV DCBを発売|日本メドトロニック株式会社のプレスリリース