非代償性肝硬変患者へのアルブミン補充は効果がない

  こんにちは。
  今日は肝硬変患者へのアルブミン投与の是非に関する論文です。

A Randomized Trial of Albumin Infusions in Hospitalized Patients with Cirrhosis. China L, et al. N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):808-817.

  アルブミンは肝臓で作られる血液中で最も量が多いタンパク質です。肝硬変が進行すると、血中のアルブミンが肝硬変の患者では低下してきます。また、アルブミンが30 g/L以下になると免疫力の低下が見られることが分かっており、アルブミンに抗炎症効果があると考えられています。しかし、この低アルブミン血症患者に対してアルブミンを補充するという大規模な臨床試験は行われてきませんでした。そこで著者らは777名のアルブミン値30 g/L以下の非代償性肝硬変患者(多くがアルコールが原因)に対し、ランダム化多施設比較試験を行いました。14日間、380名が血中アルブミン値35 g/L以上になるように調整され、397名が英国での標準治療を行われました。
  主要エンドポイントは感染、腎不全、死亡、退院の混合であり、アルブミン群が29.7%であったのに対し、標準治療群では30.2%で、有意差なし。新規感染、腎不全、死亡のいずれも有意差が見られませんでした。また、肺水腫や体液過多といった重篤な副作用はアルブミン群で多い傾向が見られました(23名 vs 8名)。
  この研究からは、肝硬変患者に対するアルブミン補充が効果がないという結論が得られました。

薬剤塗布バルーンで経皮的血管形成術後の再狭窄率が低下

   こんにちは。
   これは半年前の論文ではありますが、JACCのPodcastで大きく宣伝され続けている論文です。日本では2021年2月に保険適応され、3月に日本メドトロニック株式会社より販売され始めたばかり*ということで、透析業界ではホットな話題であると思います。

Drug-Coated Balloons for Dysfunctional Dialysis Arteriovenous Fistulas. Lookstein RA, et al. N Engl J Med
. 2020 Aug 20;383(8):733-742.

   血液透析というと、週3回、1回あたり4−5時間は拘束されるというネガティブな印象が強いと思いますが、腎臓は主要な臓器の中で唯一、完全に機能が失われても透析のおかげで長期生存が可能なのです。そのため、人工腎臓などとも呼ばれます。
血液透析には、橈骨動脈と橈側皮静脈を皮下で吻合し、動脈血を静脈に流すことで血流量を上げた内シャント(Arteriovenous Fistulas: AVF)を用います。しかし、この内シャントは日本では年間10%前後閉塞しています。(畠山卓弥 他 日血外会誌 17:557–564,2008)内シャントが閉塞してしまうと、透析を行えなくなるため、シャントを開くか、再度シャントを作る手術が必要で、通常カテーテル使って狭窄・閉塞したシャントを内側からバルーンで広げる血管内治療法がまずはとられます(経皮的血管形成術)。バルーンで開いても再狭窄が問題となっているため、細胞分裂を阻害するパクリタクセルを血管壁に届けるというバルーンが開発されました。この論文では、パクリタクセルが塗られたバルーン(薬剤塗布バルーン)と通常のバルーンで、経皮的血管形成術後の再狭窄率が調べられました。

   前向き単盲検多施設ランダム化比較試験です。330人の患者のうち、170人が薬剤塗布バルーン、160人が通常のバルーンで治療を受けました。術後6ヶ月間の開存率は、薬剤塗布バルーンが82.2%、通常バルーンが59.5%と有意に薬剤塗布バルーンのほうが高いという結果が得られました。30日以内の有害事象については薬剤塗布バルーン群が4.2%、通常のバルーン群が4.4%と、非劣勢が示されました。

  まだ短期の成績とは言え、かなり良い成績が出ています。冠動脈のステントがほぼ薬剤溶出性ステントに置き換わったように、今後経皮的血管形成術のバルーンも薬剤塗布のものに置き換わっていくかもしれません。

 

*日本メドトロニック 日本初の透析患者さん向け薬剤コーティングバルーンIN.PACT AV DCBを発売|日本メドトロニック株式会社のプレスリリース

JAK阻害剤がCovid−19重症患者に有効

   Podcastでいろいろな論文の要旨を聞くことができます。自身のリスニング力向上のためと、最新の知識を得るために、NEJM、JAMAなどを聞きます。このブログではその内容を一部備忘録的に取り上げていきたいと思います。

最近はやはりCovid-19の話題が多いです。

Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19 Andre C Kalil et al.N Engl J Med. 2021 Mar 4;384(9):795-807.

   Baricitinib(バリシチニブ)はJAK阻害剤です。これは、炎症性サイトカインの刺激伝達経路を細胞内において阻害する薬剤です。日本国内では、リウマチに対して適応があります。Covid−19の重症化には炎症系の暴走が関与していると考えられており、これまでにもIL-6阻害剤がコロナに有効で、アクテムラ(トシリズマブ)がイギリスでCovid-19治療薬として承認されたとか、日本でも治験中だとかという話がありますが、JAKはその下流にあると考えて良いと思います。疾患によって異なるでしょうが、より下流で選択的にブロックした方が全身における副作用などは少ない印象がありますし(例:ACE阻害薬 vs ARB。ACE阻害薬の方が空咳などの副作用がある)、治療の選択肢が増えるのは良いことです。

   この試験は二重盲検ランダム化比較試験で、1033人の入院患者においてバリシチニブ+レムデシビルと、プラセボ+レムデシビルを比較しています。バリシチニブ群が中央値7日で回復した一方、プラセボ群は8日でした。たった1日ではありますが、統計学的有意な改善が見られたようです。臨床症状は15日目の時点ではバリシチニブ群の方でオッズ比で30%改善が見られました。
   Ordinal Scoreごとにサブ解析をしています。Ordinal Score 4 (酸素なし)5(入院、酸素マスクが必要なレベル)の患者では両群で大きな差は見られませんでしたが、 6(高流量酸素や非侵襲的換気)の患者では、バリシチニブ群が中央値10日で回復した一方、プラセボ群では18日と有意に改善が見られました。7(侵襲的換気、ECMO)では大きな改善は見られませんでした。
   WHOのOrdinal Scaleの表と論文内のScoreが若干ずれているようですが、ググってみたらこの論文のScaleもあるみたいですね。論文ごとにScaleが違う可能性があるので、都度確認が必要です。
   死亡率も、バリシチニブ群で5.5%、プラセボ群で7.8%と改善の傾向が見られました(統計学的な有意差はなし)。

   JAK阻害剤であるバリシチニブを追加しているため、副作用が懸念されましたが、副作用はバリシチニブ群で16%、プラセボ群で21%であり、新規感染症はバリシチニブ群で5.9%、プラセボ群で11.2%とむしろバリシチニブ群のほうが有意に低いという結果が見られました。
   著者たちはデキサメサゾンとの比較に興味を持っているようですが、個人的にはやはりIL-6阻害薬と勝負してほしい気はします。